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お風呂を食って生きてやる

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スタージョンの言葉を借りれば「どんなものも、その90%はカス」だそうだけれども、残りの1割に常に入り続けるであろう絶対的存在の1つが「風呂」である。

そう。お風呂。

なんかのコピーで「ON泉、OFF呂」という洒脱白眉なものがあったけれども、まさしくお風呂は人間の日々をオンとオフに切り替える濾過装置のようなものだ。

加えて、なぜかしら日本人である我が身としては、湯船の存在するお風呂、それをいとおしまずにはいられない。

そうお風呂。

実は、あまりお風呂は得意ではなくて。カラスの行水とよく母親に揶揄されていた幼少期。しかし、社会に出ることになり、改めてその価値を再認識せざるを得ないこととなる。
お風呂とは、もはや身を洗うところではなく心を洗うところ也。つまりは、シャワーだけの存在は、それはよもやお風呂とは言えまい。

まゆつば情報かもしれないが、どこかで「シャワーはマイナスイオンを発する」という情報を見たことがある(多分ガセ)。ロジックとしては、高いところから落ちる水が地面にたたきつけられる時に粒子がホゲホゲでマイナスイオンが出るのだとか。そのロジックで考えると、確かに滝が持つその効用も一概には否定できない。

だから、上記が嘘であろうと個人的には、その気持ちがわからないでもない。つまり、湯船だけではなくシャワーも、それはそれとして確固たる価値を世界に提供している。

人生で風呂に関する思い出を思い返す。

最初に出てくるのが、高校の時にいったNYでのお風呂。野宿前提でいった私は宿もなく、空港で寝て、そしてマクドで寝て、映画館で寝るばかりだった。

しかし、ある日、スコールを思わせるような大雨が降り注ぎ、私は、全荷物をせおったまま、世界の雨を全身で受けることになる。雨宿りしようにも、びしょぬれの身を囲ってくれる店は存在しない。世の中はそんなに甘くない。

そこで、私はやむなく宿を探すことになった。さんざ探して5件目で空いていたあるホテル。確かミッドタウンにあるホテル。ブロードウェイから数本、東に行ったところにあるホテル。

そこに私は、まさしく命からがらという表現のまま、飛び込んだ。そして、部屋で漬かるお風呂の気持ちいいことは比類なきものだった。

それは、数日間の放浪の垢を洗い落とすだけでなく、雨で凍えた身を暖めるだけでなく、頼るところがなかった我が身を守ってくれる水壁であったのだ。

そこで私はただ、ひたすらにお湯を浴び、お湯を浴び、何も食べずにお湯に潜っていった。

次に思い出すのが、ある静岡にある健康センターのお風呂だ。

これは、私が東京から大阪まで歩いていた時に通った道。静岡だから、確か東京の三田を出発して5日後くらいだろうか。

毎日40キロほどを歩き、足がパンパンにはれ、加えて、連日の風呂なしの苦行に我が身はへこたれていた。

加えて町は12月。箱根の峠を越えた身に、さらなる寒さが降り注ぐ。普段ならば野宿するところだが、あいにく、静岡のその一号線沿いには身体一つ横たえることができないほどだった。

何より、町は雨だったのだから。

そこで、遠くに見える健康センターの1つの光。夜中1時を過ぎていたころだろうか。もはや何も考えることができず、ただ、そこの受付に飛び込んだ。

その風呂の暖かかったこと、暖かかったこと。その露天風呂から見た天夜の空は、何事にも変えることができぬ美しさをただ遊楽と誇っていた記憶がある。

これが2つ目のお風呂の記憶。

そして、3つ目のお風呂の記憶は、それがいつのお風呂だったのかも覚えていない。

多分、社会人になってすぐのころだろうか。あるいは、いくつかの記憶が混ざっているのかも知れない。

その日は、ただ雨が降っていて。朝からザーザー降りの雨で。冬なので、寒い凍えるような雨。みぞれもまじっていたかもしれない。

曜日は土曜日だったろうか。とりあえず、何もない1日だった。そして、時間は朝だった。

私は普段の風呂は走ってきた後に入ることが多いのだが、その日は雨のため走れなかった。だから、なんとなく、朝からお風呂に入ることにした。

いや、恐らくは何かから逃げるため、あるいは立ち向かうためにお風呂に行ったのかもしれない。

雨がざばざばと降り続く土曜日の朝。そして、部屋は音もせず、明かりもつけず、ただ水の音だけがこだまする。

そんな中で、私はお風呂でただ腑抜けた風船のように湯船に浮かぶ。潜って、回って。そして、本を読んで。

何かしらの入浴剤が身体を包み込み。手垢にまみれた表現をするならば、まるで羊水に漬かる我が身。

厄介なToDoも、こんがらがったプライベートも全て忘れさせてくれるお風呂の湯気。水だけが持つ淡い静寂さ。そんなお風呂。

そう。お風呂はある種のエルドラド。現代の桃源郷であり、そして、シェルターであり、そして、リカバリー装置である。

ということで、お風呂に今日も入ろうかしら。


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コメント (3)

よくわかるなぁ。
いくつかありますよね、そういう風呂。

けんす:

これはいい

原田:

>青メガネさん

おお!コメントありがとうございます。というか先日はありがとうございました。年をとればとるほど、風呂の素晴らしさに気づく日々です。

>けんすう

わーい。そういえばけんすうと一緒に温泉は入ったことあるよね。ブサイコので。懐かしい。ありがとう!

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