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いつの頃からか電車の中で

ちょっとした電車のお話。

私は生涯、電車通勤をしたことがなかった。小学校と中学校は歩いて。高校と大学と社会人の初期は自転車で。

最近はよく電車に乗る。

電車に乗ると、本を読む以外の選択肢がなかった。以前、本好きの友人と話していたのだけれど、「もし本を持たずに電車に乗ってしまったら、キオスクで何でもいいから活字買うよね」と言われて、強く同意した覚えがある。

別段、活字中毒というわけでなく、単純に、手ぶらで電車に乗れないのだろうと思う。自分の場合は。貧乏性だ。さらに、間違って携帯電話でも手慰みにいじろうならば、自己嫌悪することしきり。

以前誰かと(覚えているけど)、それで論争をしたこともある気がする。「電車の中で携帯電話をいじるのはやめてくれ」と。

いまや電車の中で、携帯電話を触っていない人がいれば、その人はDSを触っていて。何かしら非常に物悲しくなってくる。誰かはそのシーンを「美しくない」と一刀両断していた。しかりしかり。

電車の中で誰もがipodを聞きながら電話に親指をすべらせている光景は誰が見たって(この場合の誰が見たってという論拠は主観なので、実は、これはeverybody is nobodyのレトリックだがともあれ煽りの文脈ではそれは一時的には有効)、美しくない。

ともあれ、「時間を効率的に使っているんだよ」と反論されてぐうの音もでなかった覚えもあるけれど(効率性至上主義を公言している身としては)。でも、時には、効率性よりも美意識の方が上位概念、だろっ(決め台詞風)。

で、何をするかというと、本を読む。
本は電車の中で読むものだ、というくらい、電車の中のほかの過ごし方を知らなかった。

しかし、ここ最近、電車の中で本を読んでいない。もってはいるのだけど。

代わりに、電車の中の人々や風景を眺めることが多くなった。ぼんやりと物憂げな考え事をしたままに。そして、ふと思った。

世界は、みなに対して平等の世界。だけれども、それをどう見るかは個人個人によって違うのだ、と。

つまり、電車の中の風景。中に乗っている人たちにとっては、まったく同じ風景が見えているわけです。寸分の違いもない。もちろんセクハラしている人とかいれば、まぁ、その思惑の分だけ電車内はカルカチュアライズ(あれ、なんか違う)されているけど。

でも、その同じ風景を見ていても、感じ取る思いってのは人それぞれ違って。

もっとも、これは当たり前の話だし、今更言うものでもないけれども、まぁ待って。

その感じ取る思いの違いは一つは歴史(経験)の違い。たとえば、林檎が落ちたのを見たからって誰しもが重力の発見に気付かないように、それに気付くには、それ相応の知識量がいる。それを時に人は経験や歴史と呼ぶのだけれど。

そしてもう1つは志向性。つまり、何を考えているかで、その人が見える世界は変わってくる。たとえば、明日のプレゼンテーションの企画案を考えている人にとっては電車内で見た傘がきっかけで新しい企画を思い浮かぶかも知れない。あるいは、受験生だったら、電車の中の大学生を見て、見果てぬ夢を追うのかも知れない。

ともあれ、外界を見て、私たちが違う世界を見るのはざっくり言って(あくまでもざっくり言ってという前提つき)上記の2点による違いが大きいのだと思われる。

これは、故人が「人間は見たいものを見る」という1文で指摘した認知心理学の根幹を成すものだけれども。

でも、時に、何気ない風景が、ある人にとっては歴史を変えるほどの事実をアフォーダンスしている。「ほら、ここにいるよ」と呼びかけている。あたかも、ジプリの世界にざわめくフェアリーテイルのごとく。

いわゆるこれは、コリンウィルソンの言う「アウトサイダー」が見る世界にも繋がるかも知れない。確か、彼が喝破したのは「アウトサイダーとは、見えない世界が見える人々のことだ」と言っていた。

この本は、なかなかおすすめですよ。昔はやった本だけど色あせないと思う。もっとも8年くらい前に読んだきりだから今読むと詰まらないのかも。でも、今まで覚えているくらいだからやっぱり面白かったのだろう。

アウトサイダー
アウトサイダー
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コリン ウィルソン 中村 保男
集英社 (1988/02)
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ともあれ、そのように、「みなと同じ風景を見ているのに違うものを見てしまう人々」がいる。

私のもっとも愛する誌から引用するならば下記に該当する。

クレイジーな人々へ (いけいけどんどん)

四角い穴に丸い杭を打ち込むように

物事をまるで違う目で見る人たち

彼らは、四角い穴に丸い杭を打ち込むのだ。世界がまったく別のものに見えている。

そんなことを電車に乗りながら考えていた。そして、僕が見ているこの風景も時に人にとっては冥府へのいざないとなり、あるいは天国への架け橋になるのでせう、と。メタファーでもなく、1つの眼前たる事実として。

で、ここまでは、まぁ当たり前といえば当たり前のことを考えていたんだけど、何が言いたいかというと、そんな時に本は読めなくなってしまった、という話。

なんとなく。

本はプッシュをしてくれるけど、やはり人にとってはプルが大切なんじゃないかなぁと(ここは比ゆ的な意味でのプッシュ/プル、テクニカな意味ではない)。そう思った。

本で得る知識も大切だし、時に携帯電話で繋がるコミュニケーションは大切だろう。あるいは電車の刹那の会話も有意義なこともあるだろう。でも、時に、電車の空間に浮かぶ泡沫たる思いを慰めるのも一興なんじゃないかな、と。

いつの頃からか電車の中でそう思い始めた。


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コメント (2)

明日美:

これもなかなかいい文章だなあって思いました。いつものように、ちょっとばかり分散型ではあるけれど、読者が頭の中で要約するなにかがある。何かはよくわからないけれど。語彙が豊富であって、やはり文が豊かになりますね。話は変わって、電車の中で本を読まず、風景や人を眺める感はよくわかります。きっと、ものの見方が経験や志向により異なるというの以前に、そこにはそれを刺激する限りないドラマがあるからだと思うのですよ。経験や志向を刺激するに十分な空間というか・・。私たちの日常の行動はほとんどの場合、目的意識を持った行動となっています。仕事をするとか、どこかに行くために急ぐとか。そこでは、その目的以外の思考が介入しにくい。このくそ忙しいのに、目的意識がない行動というのはテレビを見ている時と、電車に乗っているときくらいじゃないでしょうか?テレビは受動的な媒体なので私たちはついつい受け取るだけの行動しかしない、よって、頭がパーになるのだけれど、電車の中にはすでにドラマが散在していて、私たちはそれを志向やら経験で噛み砕いていける。家族の世話で魂を失っているお父さんとか、どう考えても仕事がふまんで仕方ないサラリーマンとか、こんな地味な顔があるんだと驚いているところに目を描き口を描きで「ほお、新しい顔」を作る女子高生とか、それどころか、そんな顔つきだけでなく、彼らはしゃべるしゃべる。それを自分なりに咀嚼していく作業ができる電車というのは、いわば、インタラクティブな媒体なのではないでしょうか?それゆえ、本を読まずに眺めるに流れてしまうのは、私も同じです。今まで考えたことなかったけど、これで私自身も若干の罪悪感をもっていた行動を正当化できました。それゆえ、原田さんのおっしゃる電車の中で携帯触るなというご意見にはこれ以上の賛同はできないほどです。「本日よりすべての民放放送は廃止され、国営放送に一本化されました。将軍様への賛美の歌を朝から晩まで流します」ってのと同じですもんね。

原田:

おお、いつもご指南ありがとうございます。仰るように分散的なのは癖ですね。直せるときには直せるようにしないと。

テレビと電車は確かに、そうなのかもしれないですね。自転車乗っているときでさえiPodを聞いている昨今では。

しかし電車をインタラクティブなメディアと見るのは面白い見方かと存じ上げます。確かにインタラクティブではあるだけれど。でも、実際そうですね。人を眺めていても、そう不審ではないもの。

電車の携帯はやっぱり苦手です・・・。

いつもありがとうございます!

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