
女性が読んでると、感銘を受けてしまう本を考えていた。
先日のエントリーで、スタンダール云々と書いてからだ。
そして、ある雨の日を思い出した。
いつかの過去の日。
それは、どこか山奥に車で出かけた日だった。
しっとり降り注ぐ雨の中、湯煙が香るある夏の終わり。
温泉と井草の匂いと雨は絶妙の相性を見せて、
何も起らないある夕刻だとしても、
それは、じっとりと記憶の隙間に染み込んだ。
そんな日を、他意なく龍吾に話したら共感してくれたので、
雨と湯は何かしら、絶え間なく情緒を生み出す源泉たり得るのかも知れない、と考えた。
昔は、もっと世の中が簡単だった。
相手の容貌だけで簡単に恋に落ちることが出来た。
身体を重ねるだけで、簡単に「愛」なんていう不可解で不可思議な語彙を
使うことが出来た。
まだ世界が90年代だった頃の話だ。
時は流れ、川も流れ、星新一は鬼籍に入った。
今は、幾分、世の理が複雑になって
バブルは弾けた。
例えば、今は、人の読んでいる本がきっかけで
恋が始まることもあるだろうか、と考える。
あるいは、その人の言葉や、もしくは文章で
心が動かされ、止め処なく惹かれることもあるだろうか、と考える。
そう考えられるようになっただけ、
世界は少し複雑になり
そして、寝つきはは少しばかり簡単になった。
もし、もしある電車の中で隣り合った人が
何を読んでいれば、それは現代の黄色いハンカチになるだろうか、と考えた。
あるいは映画や音楽でも、そのような世界はあるのだろうか、と考えた。
きっとあるのだろう。しかし、私の戦場としては、いささかアウェイになる。
ふむ。
インドとネパールの国境だろうか。
バラナシからネパールのポカラに向かうバスに私は乗っていた。
国境のスノウリについてバスは止まらざるを得ない。
丁度、マオ派の全国ストが起きていたからだ。
そして予定外の足止めに、我々は、仕方なくスノウリのホテルに宿を取った。
そこで、出会った日本人の女性は
パクチーがたっぷり乗った米飯を食べながら
ポールオースターを読んでいた。
ほんの10分の話だった。
名前も連絡先も聞くこともなかった。
顔さえも覚えていない。
しかし、今でも、彼女がポールオースター
(確かNY三部作)を読んでいたのだけは強く覚えている。
人が本を読んでいると何を読んでいるかチェックする癖は抜けなくて
電車だろうと街中であろうとも、その癖は発露する。
でも、ポールオースターや村上春樹で
心に残る事はあっても動かされることはない。
動かされるには、あまりにも世界は彼らで満ちている。
もっと別の。
例えば、夏目漱石でも、「猫」ではなく「草枕」
あるいは、ヘミングウェイならば「老人」よりも「海流の中の島々」
またカフカでも「変身」ではなく「城」、「枕草紙」よりも「源氏物語(特に須磨)」
ダンテよりもボッカチオ、エウリピデスよりもソフォクレス。
完全なる個人的な趣味で言うならば。
言うならば、そういうことだ、と。
誰か昔、「白鯨も読んでいない癖に偉そうなことを言うな」
という時代錯誤な罵倒文句をどこかで耳にしたような記憶があって(夢だったかも知れない。いささか無理がありすぎる)、それは今でも耳に残っている。
ともあれ。
本でライブラリ検索。
金子光晴
神経をもたぬ人間になりたいな。本の名などわすれてしまひたいな。
女たちももうたくさん ~ さんご礁の水が 船の甲板をあらふ。
人間のゐないところへゆきたいな もう一度20歳になれるところへ


コメント (4)
私はいつか、プルーストの『失われた・・・』に挑みたい。だけどそれはいささか勇気のいることなのだよ、私にとっては。
大きな計画となることは確かで、旅に出るくらいの意気込みと平常心が必要そうな。
どこかの評論に書いてあったように、結果より過程が大事というような、寄り添うように読まなくてはいけないんだろうな、なんて。
でもああでもない、こうでもないと読む前からこうやって考えているだけで、十分堪能させてもらっている気にさえなるけれど。
投稿者: Anonymous | 2006年10月03日 00:34
日時: 2006年10月03日 00:34
プルースト
あれ、体力いるよう。
半年くらいかかった。
おもしろかったけど。
受験期の時間を活用した。
まさに、過程が重要だね、あれは。
時間ってやつを体感するよ。
コメントありがとう!
投稿者: 原田 | 2006年10月05日 02:08
日時: 2006年10月05日 02:08
原田くんの日記を読んで『犬の人生』(マーク・ストランドの短編集)の中の「真実の愛」を思い出しました。私もよく、考えるもの。恋のはじまりについて。
投稿者: アイバミカ | 2006年10月05日 20:35
日時: 2006年10月05日 20:35
犬の人生、おもしろいですか。
よく見かけるんですが、まだ読んでいないんですよ。
今度読んでみます!
恋のはじまりはいつもXXX、というような歌か何かがあったような気がしますが、人によって違うのでしょうねえ。
ありがとうございますっ。
投稿者: 原田 | 2006年10月09日 18:23
日時: 2006年10月09日 18:23